STORY 04

手仕事へのこだわりから生まれる
唯一無二の座り心地を

「花園ラグビー場」を有する高校ラグビーの聖地、そして古くから続く「ものづくりの街」として知られる大阪府・東大阪市。「東大阪でつくれないものはない」と言われるほど多様な業種の町工場が軒を連ね、高い技術力で日本のものづくりを支えています。この街で、三世代にわたってソファづくりを営む工房を訪ねました。

同社のプロダクトは、すべての工程を職人の手仕事で行い、膨大な手間と時間をかけてつくられる特別なソファ。量産体制をとらず完全受注生産にすることで、細部へのこだわりと一人ひとりの好みに合わせた座り心地を追求しています。

高い職人技術のルーツは、一人の家具職人だった先代から。今のように便利な道具も機械もなく、職人の腕だけがすべてだった時代に椅子づくりを究め、工房を立ち上げました。以来、60年を超えてその技術は職人から職人へと受け継がれ、守られています。幼い頃から工房が遊び場だったという現在の社長は二代目。「小学5年生くらいには、もう手伝ってましたね。子どもの頃からずっと椅子(ソファ)を見てきたから、椅子とはどういうものかが自然とわかるようになりました」と話してくれました。

機械でなく人の手で描かれた線が、温もりある仕上がりに繋がる

熟練の職人にしかできない「単バネ吊り」は、今や希少な技術

失われゆく技術を、手から手へ受け継ぐ

ソファの下地部分には、さまざまな種類のバネやウェービングテープが使われています。イメージする座り心地に合わせて、一般的によく使用される「Sバネ」や「コイルスプリング」、「ポケットコイル」などを使い分け、その上にウレタンを重ねてクッション性をつくり出すのです。この下地づくりがソファの耐久性や座り心地を大きく左右するのですが、中でも別格の座り心地と言われるのが、「単バネ吊り」のソファです。古くから受け継がれる技術ですが、職人の高度な手仕事を必要とするため、単バネ吊りができる工房は今やとても希少なのだとか。

単バネは、らせん状に巻かれた弾力のあるバネです。一つひとつ独立したこのバネ数十個を等間隔に並べ、ひもで結びつなげていきます。一つのバネにつき表面を8ヵ所、裏面をおよそ3ヵ所ずつ結びながら、すべてのバネをネット状につなぎ固定していく。結ぶ回数は数百回にもおよびます。バネがずれたり歪んだりしないよう、均等に力をかけながら行う難しい工法。熟練の技術と集中力が必要なのは言うまでもありません。

こうして完成したソファに掛けてみると、体ごとしっかりと支えられるような安定感にびっくりします。座る人の重さに合わせてゆっくりと沈むのですが、すぐに同じ力でぐっと押し返してくれる。ひもを張り巡らせることでバネの「面」がつくられ、絶妙な反発力が生まれるからだそうです。体の一部に重心が偏らず、長時間座っても苦にならないのもそのため。長く受け継がれる技術には、それだけの理由があるのです。けれど、さまざまな事情により失われていく技術があるのも現実。この小さな灯を決して絶やさないよう、つくり手、売り手、使い手、それぞれに何ができるのか。私たちも考えていきたいと思います。

クッション部にはフェザーとコットンをブレンドして使用。思い描いた座り心地を実現するため、手作業により絶妙なバランスで調合される

デジタルにはできないものづくり

10名ほどの職人がそれぞれの工程を担当するソファづくりの現場へ。そこでは本当にすべてが手仕事で行われていることに驚きました。まず、ソファの骨格となる木枠にはさまざまな形の木材パーツが必要です。多くの家具工場では、そのパーツを加工するのにデジタル制御のマシンを使用するのですが、ここでは職人が何種類もの木工機械を操り、手仕事で加工を行っていました。流線的なラインも、木材に記された手描きの線に沿って鮮やかにカットされていく。その木工技術の高さはまさに職人技で、まるで「こっちの方がずっと早いんですよ」と言わんばかりです。張り地の裁断も同様でした。自動裁断のマシンはなく、使い込まれた定規とはさみで職人が手際よく布や革を裁っていきます。

「うちはオーダーメイドだから量産と違って仕様を規格化しづらいんです。同じデザインであっても、常にお客様の好みに合わせて厚みもサイズも調整する。細かな要望やミリ単位の変更に柔軟に対応するには、マシンよりも手仕事の方がずっと早いですから」と社長。どうりで、工房内には膨大な数の「型」がいたるところにありました。それらは、木枠を作るための型板や張り地の型紙。お客様からの要望はもちろんですが、いったん形になったものでも一からやり直すことがあるそうです。「やっぱりウレタンをあと20ミリ厚くしようか」そう決めたら、すべてを解体して木枠からやり直し。そのたびに、また型は増えていきます。
手仕事によって受け継がれる技術と、妥協を許さないものづくりへのこだわり。数百、数千の「型」たちは、その象徴でもあるのです。

張り地の型紙は、伸縮性など生地の特性に合わせて細かに作り分けられる

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