STORY 05

木は「暴れる」もの。無垢材から学ぶ、
家具とのサステイナブルな付き合い方

無垢材の家具と暮らす魅力のひとつに、経年変化があります。使い込むほどに増す風合いや、光の影響を受けて変わっていく色味。20年、30年と時を重ねても、「劣化」ではなく「変化」として楽しんでいけるのは、家具になってからも木が生き続けているからです。しかし、家具職人にとって無垢材は、自然のものを扱う難しさもあります。生き物だからこそ、すべてを人間の思い通りにコントロールすることはできない。樹種や産地による性質のちがい、部位ごとの強度差など、木の個性と付き合いながら、つくりたい家具に合わせた選別が必要になります。まさに適材適所です。

広島県福山市、かつて材木港として栄えた松永湾にほど近い住宅街のはずれに、70年以上にわたって木の家具をつくり続ける工場があります。けっして大きくはありませんが、長年木と向き合ってきた経験と専門性の高い技術に惚れ込んで、一流ブランドからのOEM依頼が後を絶たない工場です。技術的に難度の高いデザインの依頼も多く、中には3年がかりで引き受けてくれる工場を探した末にここへたどり着いたという企業もあるそう。現役の家具職人であり、家具のデザインも手掛ける社長にお話を伺いました。

工場敷地内にあるギャラリーは、地元の小学校として愛された建物を一部移築したもの。周囲には瀬戸内の穏やかな風景が広がる

国産サクラの無垢材を使用したダイニングテーブル

先代が遺した、稀少な国産のサクラ

同社が使用する木材はウォールナットやビーチ、ホワイトオークといった輸入材を中心に、ナラやチークなどの稀少な樹種も。社長自らが木材を目利きし、仕入れを行っています。その中で私たちが惹かれたのが、サクラです。外国産のチェリー材とは別もので、国産のサクラというのはなかなか市場に出回らない稀少なもの。今から30~40年前に現社長のお父様である先代社長が仕入れた北海道産のサクラ材を、少しずつ切り出しながら大切に使っているそうです。

「サクラは芯に近いほど色味が赤く、表皮に近い外側ほど白っぽい。そのせいで、家具の見た目に均一性が重要視された時代には扱いづらい樹種でした。今はそれも無垢材ならではの個性として捉える人が増えてきた。以前サクラでテーブルを作ったときには、天板の木目や色の濃淡が描き出す模様が瀬戸内の海と島々みたいに見えて。お客さんも非常に気に入ってくれましたね」

機能面においてはくるいや反りが少ないこと、そして目詰まりしにくいことがサクラの利点。水や養分を通すための「道管」と呼ばれる管が他の樹種にくらべて小さく、木の密度が高いため、ほこりを吸いにくく汚れも染み込みにくいのだとか。そのためテーブルはもちろん、床や敷居などの建築用材にも適しています。「わが家の床にはサクラを張りました。きれいですよ。色もだんだん変化してきて」。

木目や色はもちろん、叩いたときの音や香りも無垢材ならではの魅力

補修しながら何十年も使う、それが木の家具

無垢材は、家具になってからも生きています。それ自体に調湿機能があり、湿度の高い空間では湿気を吸って膨張し、乾燥した空間では逆に水分を放出して収縮する。日本の冬は空気が乾燥しているうえ、エアコンやストーブを強く効かせた室内はより湿度が低くなります。そうすると無垢材は空気中に水分を放出するため収縮し、その度合いが大きいと割れたり反ったりすることがあるのです。こうした無垢材ならではの動きを家具職人たちは、「木が暴れる」と表現するのだそう。

「きれいに製材された木を見ても、素直なのとひねくれ者がある。いい木はすーっとまっすぐで、みんな言うことを聞くけど、ひねくれ者はなんぼ説教しても暴れて言うことを聞かない。おひさまがたっぷり当たる場所で育った木、湿気の多いところで育った木、崖のところで埋もれながら、世の中へ出よう出ようと曲がって育った木。そりゃあ、性質は全然ちがいます」と社長。だからこそ仕入れ時にしっかりと目利きし、木取りや工法を工夫することで、木が暴れるのを最小限に抑えることが大切なのです。豊富な経験と勘どころ、そしてミリ単位の高い技術が必要な仕事です。ただ、すべてが見た目で判断できるわけではないのが自然のものを扱う難しさ。たとえば輸入材の場合、成長の過程で大きなハリケーンなどに遭って木が曲がってしまうことがあります。その影響で、きれいに製材された見た目からはまったく分からなくても内部に微妙なズレがあったりする。接ぎ合わせのテーブルに一枚、そういう板が入っていると、最初のうちは何ともなくても数年後に割れが出てくることがあるのだそうです。

しかし、無垢の家具のいいところは「直せる」ところなのだと社長は言います。
「木の世界は、機械のように同じパーツを組み立てて均一につくる世界とはちがう。直すことが当たりまえ。直して初めてその木が落ち着くということが多いんですよ。一度割れて開くと、暴れていたのがようやく止まります。そこを直してあげれば、その木はもう落ち着く。昔の茶箪笥のような木で組んだ家具なんかもそうです。直すことを前提につくられてる。湿度変化で木が動いてきたら、一度バラバラに解体してまた組み直す。それで一安心」。

無垢の家具は一生もの、と言われます。壊れたら、汚れたら終わりではなく、手入れや修繕を繰り返して人生をともにする。ひとつの家具が世代を超えて受け継がれる中で、そうした家具と使い手のパートナーシップも一緒に受け継がれていくことを願います。

椅子やテーブルなど脚物に製造を特化し、技術を磨きつづける

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