STORY 03

見えない部分に最高品質を使う
「20年ヘタらないソファ」

日本有数の下駄の生産地として、ピーク時の昭和30年頃には年間約5600万足もの生産量を誇った広島県福山市、松永。海上交通に適していた松永湾は、木材港として国内外からさまざまな木材が集められ、のちに府中家具を代表とする家具産業の発展へと繋がっていきます。大量の丸太がところ狭しと海に浮かべられた壮観な様子を、ほんの数年前までは目にすることができたそうです。その松永湾に面した工場街に、ソファを専門につくるメーカーがあります。彼らが掲げるソファづくりのコンセプトは、「長く使える」ということ。創業から約50年、使う人がより心地よく、より上質なソファをめざして日々努力と挑戦を続けています。
ところで、長く使えるソファの条件とは何でしょうか。1つ目は当たり前のことですが、長期間毎日の使用に耐えうるだけの耐久性です。2つ目に体に負担のかからない座り心地の良さで、3つ目は飽きのこないタイムレスなデザイン。そして最後に、経年変化を楽しめる素材であることです。ソファは、そのほとんどの部分が表に見えないという意味で、見極めるのが非常に難しいアイテムです。だからこそ、本当に気に入ったものと出会えたら、それは一生もの。わたしたちの考える「長く使える」は10年やそこらを指してはいません。「20年ヘタらないソファ」は、どのようにして作られるのか。今回はその、耐久性と座り心地についてのお話です。

杉材や松材の丸太がゴロゴロと浮かんでいた、かつての松永港

ソファの耐久性や座り心地の決め手となるポイントは、そのほとんどが表には見えない内部の構造にあります。まず、ソファがつくられる工程を簡単に説明すると、「木枠の製作」→「下張り(バネ)」→「下張り(ウレタン)」→「張り地の裁断・縫製」→「上張り」という流れ。この中で、耐久性のカギとなるのが木枠とバネです。木枠とは、ソファの構造躯体になる、いわゆる骨組みのこと。ソファにはなんと数百kgもの力が毎日、断続的にかかるので、木枠は適度に「しなる」ことで加重を分散して受け止めなければ、いずれは折れてしまいます。そのため木枠の素材には、ねばりの強いブナの無垢材を使用しています※1。芯に近くて硬い部位を選んでいるので釘が抜けにくく、しなやかで衝撃に強いのがメリット。そして下張りには国産の高品質な鋼線でつくられたバネを採用しています※2。下張りのバネは、イメージする座り心地に合わせてSバネやポケットコイル、ウェービングテープなどを使い分け。一般的なソファに使われるバネの多くが60カーボンであるのに対し、炭素含有量が多い70カーボンの硬いバネでヘタりにくいソファを実現しました。さらにバネ同士を鋼線でつなぎ合わせることで加重を分散し、耐久性をもう一段アップ。その強さは、30年使用したソファを張り替えるときですら交換の必要がなかったほどというから驚きです。

※1 バネを打ち付ける部分や負荷の大きい箇所以外は合板も使用しています

※2 下張りはイメージする座り心地に合わせてSバネやポケットコイル、ウェービングテープなどを使い分けています

心地よさは、強さとしなやかさから生まれる

そもそも、なぜソファはヘタるのか?そこには「ウレタン」の存在が大きく関係しています。ウレタンとは、身近なものにたとえるなら、密度の高いスポンジのようなもの。内部にたくさんの小さな空洞があるので、加重がかかると当然へこみます。この加重が毎日かかり続けることで、空洞部分が少しずつ潰れていくと、いわゆる「ヘタり」になるわけです。これを避けるには、できるだけ密度の高いウレタンを使う必要があります。密度が高い=空洞が小さくて重いということ。通常、ソファの座面には25kg/㎥以上のウレタンを使用するのが標準ですが、同社で使用するのは30kg~70kg/㎥の高密度ウレタンです。これだけの高密度であれば20年程度はヘタりや型崩れがほとんどなく、長く使っていくソファの素材として納得できるもの。ただし、これだけでは硬すぎてとても座り心地がいいとは言えません。そこで、一種類だけではなく硬さのちがう数種類のウレタンを貼り合わせるという方法を使います。芯の部分には硬いウレタンを使い、体に直接あたる表層面にはやわらかめを使うことで、座るときの衝撃をうまく吸収し、「気持ちがいい」と感じる座り心地を実現しているのです。また、座面の最前部に硬めのウレタンを入れて「土手」をつくり、お尻が前に滑ってしまうのを防ぐ工夫も。あらためて、ソファの耐久性や座り心地は、やはりほとんどが目に見えないことを実感します。しかし、だから手を抜くのではなく、むしろ最高品質を追求するその姿勢に、古き良き日本の職人魂を感じずにはいられません。

数種類のウレタンを三層以上貼り合わせることで、心地よい座り心地を生み出す

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